お風呂

 ある日の夕方、雲雀家。
 仕事が終わり、帰宅した菜穂は、雲雀が帰って来る前に、汗を流す事にした。
 「あっ、そうだ。雲雀さんが入るかもしれないしから、一緒にお風呂も沸かしておこうっと♪」

 
 風呂の中を洗って湯を沸かしながら、菜穂がシャワーを浴びている頃、雲雀が予定より早く帰って来た。
 「ただいま」
 返事が無い。
 いつもなら、『ひ、ひひひ雲雀さんっ、おおお帰り、なさいっ』と吃りながら、玄関まで迎えに来て、返事をするのだが。
 「……?菜穂?居ないの?」
 しかし、下を見ると、菜穂の靴があった。という事は、『家に居ながら雲雀が帰って来た事に、気付いていない状況にいる』という事である。
 つまり、
 ・寝室で寝ている
 ・風呂に入っている
 ・ベランダに出ている
 のどれかだろう。
 とりあえず、寝室を覗く事にした。
 (寝ていれば、菜穂の寝顔が見れるしね)
 しかし、残念な事に寝室には居なかった。
 (じゃあ、風呂かベランダにいるのかな)
 寝室を出ながら、そう考えていると、風呂場の方から微かに水の音が聞こえた。
 (なるほど。風呂に入ってるんだ)
 これは夫婦の、菜穂との距離を縮める良いチャンスではないかと、雲雀は考えた。付き合い始めて、3年は経つというのに、未だに菜穂は、少し雲雀が近づこうとすると、阻止しようと必死に抵抗。触れようものなら、雲雀の手を振り払い、脱兎の如く逃げる始末。
 (まぁ、最初よりましになったけどね)
 付き合い始めの頃は、半径1メートル以内に雲雀が近付くと逃げていた。そんな菜穂を雲雀が強引に、キスが出来る(もちろん、雲雀からだけだが)所まで来たのだ。
 (そろそろ、一緒に風呂に入っても良い頃だよね)
 そんな考えを僅か一分程で、まとめた雲雀は風呂の道具を持って、風呂場へ直行した。


 一方、その頃の菜穂は、雲雀の気配をいち早く感じ取り、パニクっていた。
 (どっどっどどうしよう!ひっ雲雀さんがっこっちに来る!!私のはっ裸見られる訳には…逃げなきゃ!!)
 ガチャ…
 菜穂がパニクっている間に雲雀が脱衣所のドアを開けた。
 (ひっ雲雀さんっ歩くの早過ぎぃ…っ。早く、どっどこか隠れなきゃっ…)
 カチャ…。
 (ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!)


   服を脱いだ雲雀は、躊躇する事なく風呂のドアを開けた。
 中には…誰も居なかった。
 だが、リンスが入った容器やシャワーのノズルなどが水で濡れた床に倒れていた。まるで、つい先程まで、シャワーを浴びていたが、慌てて出て行ったかの様に。
 雲雀がふと風呂の方へ目をやると蓋が僅かにめくれている。
 それを見て、雲雀は、格好の獲物を見付けた、腹をすかせた狩人のような笑みを浮かべ、勢いよく蓋をめくった。
 「…ねぇ、本気で僕から逃げられると思ったの?」
 中には湯舟に浸かって、タオルで体を隠しながら、体育座りをしている菜穂がいた。逃げ場が無かった菜穂はとっさに風呂の中に逃げこんだのだ。
 「おっ思って無いです…」
 菜穂は、雲雀の質問に涙声で答えた。
 「そう。じゃ何で隠れたりしたの?」
 「え、あ、あのっその…それはですね……」
 「それは?」
 (雲雀さんっ顔近いっ)
「え、えっと……」
 「…何?10秒以内に答えないとキス、するよ?」
 「はっはい!!分かりました!今すぐ、答えます!…わっ私の裸で雲雀さんのお目を汚したたくなかったんですっ」
 「……へー。そうなの。でも、どんな理由が有ろうと僕から隠れようとした罰を、菜穂には受けて貰わないとね」
 「え?!罰って何を…」
 微かに笑みを浮かべた雲雀は、菜穂の膝に右腕を入れ、左手で肩を支えると蓋にぶつからないように持ち上げた。菜穂を風呂の縁に座らせると、まだ濡れている髪を後ろから支える様に手を添え、風呂の縁に残った手を置いた。
 (ひゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!)
 「…ねぇ、顔上げてくれない?」
 「はっはいっ」
 反射的に上げた菜穂の顔に雲雀の顔が重なった。







 …ここ先からは、ポニョタイム!!